
マイクロフィルムに代わる長期保存媒体について
資料を保存する際の手段としてはこれまで様々な媒体が開発され利用されていますが、現在はその手段も徐々に電子媒体へと置き換わって来ています。一口に電子媒体と言ってもその目的や重視するポイントによって最適解は変化するため頭を悩まされる方も多いと思います。
弊社が携わらせていただくことの多い長期保存を前提とした電子化等の作業においても保管期間や目的により、その作業手法は変わり、保管方法も選定する必要があります。場合によっては電子媒体ではなくフィルム化して保存する場合もありますので、いくつか例を挙げて説明させて頂きます。
1.過去からの様々な媒体について
まず、これまで利用されてきた代表的な保存媒体をご紹介します。
- 紙カード(パンチカード): 初期のコンピュータ用記録媒体です。
- 磁気テープ:1950年代に登場し、大容量のデータ保存が可能になりました。
- フロッピーディスク:持ち運び可能で他のコンピュータに容易に移すことができることから、世界中に広く普及し、またPCの主要な記録媒体として利用されました。
- 光記録媒体:CD、DVD、Blu-rayなどで今も主要な電子媒体として流通しています、1980年代には各電機メーカーから電子ファイリング専用機が販売され専用の光ディスクが使われていた時期もありました。
- フラッシュメモリ:半導体を利用したUSBメモリー、SDカード、SSDなどの記録媒体です。大容量化、低価格化が進み現在広く普及しています。
- その他:MOやHDDなどの磁気ディスク、他にはフィルム、レコード等も保存媒体です、媒体のイメージとは違うかもしれませんがクラウドストレージなども保存方法の一つです。
マイクロフィルムを含め、これらすべての記録媒体は劣化していきます。保存する情報ごとに、適切な記録媒体を選ぶには、それぞれの媒体がどのように劣化するかを理解しておくことが重要です。
2.長期保存媒体のマイクロフィルム
電子データを保存する媒体ではないですが、長期保存媒体として、マイクロフィルムはとても優秀で実績もあるため官庁や民間で長く使われてきました。マイクロフィルムは適正に保管すれば最長500年間の寿命が期待できると言われており、現在に至るまで資料や図面、古文書関係等、色々な紙媒体がマイクロフィルム化され保存されてきました。
弊社は1951年、いち早く米国からマイクロフィルム撮影機を導入し長年の間、撮影作業に携わってきましたが、国内唯一の製造元である富士フイルムより『マイクロフィルムは 2025年12月に受注終了』と発表されたため、今後は材料が無くなり次第マイクロフィルム撮影は終了することが見込まれます。
撮影に代わる方法としてはデジタルカメラ撮影やスキャン作業により電子化することが考えられますが、長期保存の際にはマイクロフィルムに代わる媒体を決定しなければなりません。
なおマイクロフィルムは法的証拠能力が認められてきましたが、スキャンデータでのそれに代わる方法としては電子署名やタイムスタンプ付与等の方法が考えられます。
3.マイクロフィルムに代わる長期保存媒体について
マイクロフィルムに代わる長期保存媒体については以下の様な媒体が候補として考えられます。
◆ オンラインストレージ
実際のメディアはHDDですが、厳重なバックアップ体制により守られており、長期保存にも対応出来ると思われます。利用には通常毎月の使用料や保守料などが発生します。料金も使用するストレージ容量によって変化するため、大容量が必要である場合はランニングコストが多額になることが考えられます。基本的にメンテナンスフリーである点は魅力ですが、長期保存の視点ではサービス提供事業者への依存性が高い点はリスクとして存在します。
◆ アーカイブ用光ディスク
長期保存用に作成されたDVDやBD(ブルーレイ)が該当します、通常の光ディスクは長期保存を目的としていないため、保存期間は5~10年とされていますが、アーカイブ用は特別に設計された記録層を持ち、JIIMA(日本文書情報マネジメント協会)認証を受けたディスクとドライブの組み合わせでディスクに記録したときの品質は、JIS X6257 の規定で定める「良好な状態」を満足し、ISO/IEC 16963 準拠の寿命試験で推定寿命が100 年以上あることとしています。
◆ M-DISC
長期保存用に作成されたDVDやBD(ブルーレイ)であり、アーカイブ用光ディスクと似ていますが同じではありません、こちらも非常に高い保存性を持っており寿命は100年以上と言われていますが、こちらはJIIMA認証はなくどちらかというと個人用かもしれません。
◆ LTO(Linear Tape-Open:リニアテープオープン)
大容量磁気テープ技術でコスト効率が良く、業務用の長期保存に使用されています。ただし、特定のリーダー(LTOドライブ)が必要となります。
<未来の保存媒体>
◆ 石英ガラス(データクリスタル)
石英ガラスにデータを刻む技術は、1000年以上の保存が可能とされ、未来の記録媒体として注目されています。
◆ DNAデータストレージ
DNA分子に情報を保存する技術で、非常に高密度かつ長期保存が期待されています。ただし、現在のところは研究段階です。
資料の長期保存を考えた場合、様々な媒体があり用途や保存期間などにより選定することになりますが、貴重な歴史資料や公文書の保存媒体としてはアーカイブ用光ディスクを採用する機関をよく目にします。現在は専用ドライブの入手が困難な状況ではありますが、JIIMA認証などもあり、今後はマイクロフィルムに代わる長期保存媒体として各機関にて採用されるところが増えるかもしれません。